2007/12/28

Method of Change : 60年代賛美論とオバマ

民主党の予備選挙におけるキーワードは、変化と実力である。政策論という点では、ニュアンスの違いこそあれ、有力な候補者の間に大きな違いはない。政策的に、さまざまな角度から亀裂が入っている共和党予備選挙とは対照的だ。有権者の現状に対する不満が強い中で、変化をもたらせる候補者は誰なのか。テロや戦争への懸念がくすぶるなかで、国を任せられる実力があるのは誰なのか。問われているのはこの2点である。米国の選挙はキャラクターで決まるという議論は、決して新しいものではない。ただし、今回の選挙の場合、一緒にビールを飲みたいのは誰か?というような問いかけは、あまり聞かれない。それだけシリアスさの強い選挙だということかもしれない。

変化といった場合に、各候補の差別化はどうなされるのだろうか。分かりやすいのが、ヒラリーによる定義づけである。ある候補(エドワーズ)は変化を要求し(demanding it)、ある候補(オバマ)は希望するが(hope for it)、自分はそれを実現するための方法を知っている(work for it)といういいぶりである。それぞれのセールスポイントを的確に言い表しており、攻撃された筈の各候補にしても納得してしまうのではないだろうか。

例えばエドワーズは、既得権者が話し合いだけで、進んで譲歩するわけがないと強調してきた。違いは乗り越えられるとするオバマの議論に対しては、ナイーブに過ぎるという批判がある。しかし、変化を実現するための方法論としては悪くないという指摘もある。議会の状況を考えれば、変化を立法で実現するには、共和党議員をある程度巻き込む必要があるが、融和の必要性を解けば、ためにする反論をある程度封じられる。加えて、融和論は無党派層にアピールするので、議会選挙でも民主党候補にプラスに働く可能性があるからだ(Schmitt, Mark, “The Theory of Change Primary”, The American Prospect, December 21, 2007)。

変化といえば、米国の広告業界では、60年代をテーマにした広告戦略がちょっとしたブームだという(Elliott, Stuart, “The ‘60s as the Good Old Days”, New York Times, December 10, 2007)。その特徴は、カウンターカルチャーや反戦運動など、ともすればネガティブなイメージが伴っていた出来事を、ポジティブな視点から取り上げる点にある。変化をもたらした時代として、60年代を評価するわけだ。その時代に人格を形成してきたベビーブーマーがターゲットなのは容易に想像がつくが、意外にその子供世代にも好評だという。

興味深いのは、60年代賛美の風潮とオバマの議論の関係である。既に触れたように、世代交代論はオバマの主張の主要な軸の一つである。オバマは、「自分たちはヒラリーが実現できない種類の変化を体現している。それは世代的な問題だ」と述べる。60年代から続く論争を戦いつづけている世代では、国を一つにまとめ上げて、変化を実現するのが難しいというわけだ(DeBose, Brian, “Obama confronts generation rifts”, Washington Times, November 8, 2007 )。

オバマの議論は、60年代の闘争を明示的に否定している。しかし同時に、現状維持に対抗して「変化」を求めるというスピリットでは、広告業界が感じ取っている60年代賛美論に相通ずる部分がある。この辺りが、オバマの特異な位置取りだ。

60年代とオバマの関係では、反戦の側面も忘れてはならない。現在の60年代賛美論の底流には、当時の反戦運動と現在のイラク戦争反対論の共鳴を指摘する向きがある。他方で、クリントン政権の中道路線を批判するリベラル派の勢力が、政策や主張の面ではどうみても中道派であるオバマ支持に回っている一つの理由は、イラク戦争に対する姿勢の違いだといわれる。ここでもオバマにとっては、批判の対象としている60年代のスピリットが追い風になっている。

体制に逆らい世代交代を訴えた世代が、同じような視点から交代を求められている。これも現在の米国の景色である。

0 件のコメント: